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福岡高等裁判所 昭和48(行ケ)1 行政事件裁判例

○ 主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

○ 事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和四八年三月一〇日なした昭和四七年一〇月八日執行

の牛津町議会議員補欠選挙における選挙の効力に関する裁決を取り消す。訴訟費用

は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として

一 原告は昭和四七年一〇月八日施行された佐賀県小城郡牛津町議会議員補欠選挙

に於て無投票当選をなしたものである。

二 右補欠選挙は牛津町議会議員に一名の欠員を生じたことにより、牛津町選挙管

理委員会が牛津町議会議長から同年九月二一日に欠員通知を受け、公職選挙法第一

一三条第三項の規定に基づいて牛津町長選挙に便乗して行なつたものである。

三 右補欠選挙の効力に関し、訴外Aから異議の申出があり、牛津町選挙管理委員

会は昭和四七年一一月一六日付決定を以て、右異議の申出を棄却したところ、同年

一二月一六日右訴外人か右決定に対し審査の申立がなされた結果、被告は昭和四八

年三月一〇日付裁決書を以て、牛津町選挙管理委員会がなした右決定を取り消し、

本件補欠選挙を無効とする旨裁決し、該裁決書の告示は同年三月一九日になされ

た。

被告の右裁決の理由とするところは、牛津町選挙管理委員会が欠員通知を受けたの

は昭和四七年九月二一日であり、牛津町長選挙および本件選挙の期日の告示の日は

同年一〇月一日であり、公職選挙法第一一三条第三項但書中「選挙の期日の告示前

一〇日以内」とは、選挙の期日の告示の日の前日を第一日として逆算し、一〇日目

にあたる日以内であると解すべきであるから、本件選挙については、告示の日の前

日すなわち九月三〇日を第一日として逆算し、一〇日目にあたる日は九月二一日で

あり、右委員会が欠員通知を受けた日もまた九月二一日であるので、本件選挙は同

法条に抵触して執行されたものであつて、同法第二〇五条第一項に規定する「選挙

の規定に違反する」ものであるから無効であると謂ふにある。

四 しかしながら、同法第一一三条第三項但書中、「選挙の期日の告示の目前一〇

日以内」というのは、選挙の期日の告示の日を第一日として逆算し、一〇日目にあ

たる日以内の意味であり、これを本件選挙にあてはめると、町長選挙の期日の告示

の日は一〇月一日であるから一〇日目にあたる日は九月二二日となる。よつて欠員

通知を受けた日である九月二一日は一一日目にあたり、同法第一一三条第三項但書

の規定には抵触しない。

五 また同法第一一三条本文は、いわゆる便乗補欠選挙を執行しなければならない

場合について規定しているが、同項但書において、市町村の議会議員の選挙につい

ては、当該市町村の他の選挙の期日の告示の日前一〇日以内に当該選挙に関する事

務を管理する選挙管理委員会が、議会議長から議員の欠員通知を受けた場合は、

「この限りではない」と規定している。右但書の規定は選挙管理委員会に選挙執行

上の準備のための期間を配慮したものである反面、議員の欠員を努めて除去しよう

とする同法条の法意を斟酌すると、告示の日前一〇日以内に欠員通知を受けた場合

に選挙の準備ができかねるときは、便乗選挙をしなくてもよいとの趣旨であり、十

分選挙の準備ができるときは執行してもよく、選挙を執行するか否かは選挙管理委

員会が諸般の事情を考慮して定めることができるものと解すべきである。

しかるところ、本件においては、牛津町議会議員訴外Bが町長選挙に立候補するた

め、地方自治法第一二六条の規定により、牛津町議会議長に辞職願を提出したのは

昭和四七年九月一八日であり、この時点で牛津町議会の議員に欠員が生じるのは確

定的であり、公職選挙法第一一三条第三項に規定する補欠選挙の要件は実質上とと

のつていたと考えられるし、選挙執行の準備に支障を来すことはなかつた。従つ

て、本件選挙は同法第二〇五条第一項の「選挙の規定に違反することがあるとき」

には該当しないから、被告が本件選挙がこれに該当し無効のものであるとしてなし

た前記裁決処分は法の解釈を誤つたもので取消されるべきである。

六 かりに、本件補欠選挙が、同法第二〇五条第一項の規定する「選挙の規定に違

反することがあるとき」に当たるとしても、同項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞

がある場合」にあたらないので、本件選挙を無効と裁決し又は判決することはでき

ない。

すなわち、同項にいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞れがある場合」とは、その違

反がなかつたならば選挙の結果、すなわち、候補者の当落に現実に生じたところと

異なつた結果の生ずる可能性のある場合をいうものと解すべきであるところ(昭和

二九年九月二四日最高裁第二小法廷判決参照)、本件補欠選挙に於ては、欠員一名

のところ立候補者は原告唯一名にして、他に立候補者なく、原告が無投票当選した

ものであるから、本件補欠選挙が同法第一一三条但書の規定に違反するところがあ

つたとしても、選挙の結果、すなわち候補者の当落に現実に生じたところと異つた

結果を生ずる可能性のある場合には該当しない。従つて、本件補欠選挙を無効と裁

決することはできない筋合である。

七 よつて、請求の趣旨のとおりの判決を求める

と述べた(証拠省略)。

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として

一 請求原因一、二、三項の事実は認める。

二 請求原因四項の主張は争う。

三 請求原因五項のうち、訴外B議員が町長選挙に立候補するため、地方自治法第

一二六条の規定により牛津町議会議長に辞職願を提出したのが昭和四七年九月一八

日であつたことのみを認め、その余の原告の主張事実はすべて争う。

四 請求原因六項の主張は争う。

と答え、その主張として

一 公法上の期間計算については、将来に向つて計算する場合は勿論のこと、過去

に遡つて計算する場合も特別の規定がある場合のほかは、初日を算入しないでその

翌日または前日を起算日と解するのが相当である。この計算方法は行政解釈として

確立された原則と言つてよく、行政実例上も選挙事務、一般行政事務を通じ一貫し

てこの方法に従つている。

本件補欠選挙において、牛津町議会議長から同町選挙管理委員会に欠員通知がなさ

れたのは、昭和四七年九月二一日で、選挙の期日の告示の日である同年一〇月一日

の前日から逆算して一〇日目にあたるから、公職選挙法第一一三条三項但書の規定

する「一〇日以内」の欠員通知に該当すること明白であり、従つて、本件補欠選挙

は右法条に抵触して執行されたものである。

二 しかして、同法第一一三条三項但書は強行規定と解するのが相当であるから、

選挙管理委員会が選挙執行上の準備に支障を来すことがないからということで、そ

の裁量により補欠選挙を執行することはできないのである。このことは行政解釈上

においては、同法条を強行規定と解することが既に確立されており、選挙実務もこ

れに従つているのである。

かりに、原告主張のように、当該選挙管理委員会の裁量により選挙の執行が許され

ると解するときは、選挙執行上の実務の混乱を激発し、更に立候補予定者選挙民、

政党、諸団体等に政治的に利用される虞もあり、選挙管理委員会自体が収拾すべか

らざる窮地に陥る危険が生じるから、同法条は強行規定と解し、形式的画一的に同

法条違反の有無を決すべきである。

三 以上のように、本件便乗補欠選挙は重大な法定要件を欠く場合であるから、同

法第二〇五条第一項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるか否かを問わず、そ

の選挙は無効というべきである。

すなわち、同条項が選挙無効の裁決をなすには「選挙の規定違反」のみならず「選

挙の結果に異動を及ぼす虞」がある場合に限つたのは、同法第一一三条三項但書の

規定に違反して行われた選挙の結果が、無投票当選となつた本件補欠選挙のような

特殊な場合を予定しないで規定を設けたものと解すべきであるから、本件補欠選挙

については、同法第一一三条三項但書規定違反の事実があることのみを判断し「選

挙の結果に異動を及ぼす虞」に論及することなく選挙無効の裁決をなした被告の判

断に違法の廉はない。

四 かりに、被告の前項の主張が容れられないとしても、牛津町選挙管理委員会が

同法第一一三条三項但書の規定を遵守していたら、木来、本件補欠選挙は執行され

ず、当選人の生ずる余地もなかつたことになるところ、同町選挙管理委員会は同条

項但書の規定についての被告の指導警告を無視して選挙を執行した結果、現に原告

が当選人となつていることは選挙の結果に異動があるものというべく、本件補欠選

挙は無効と解すべきである。

と述べた(証拠省略)。

○ 理由

一 請求原因一、二、三項の事実は当事者間に争いがない。

二 ところで、公職選挙法第一一三条第三項は、同条第一項の議員の欠員がその定

数の一定割合を越えるに至つたときに行なわれる通常の補欠選挙のほかに、議員の

欠員が右一定割合を越えない場合においても、他の選挙に便乗させて行なわなけれ

ばならないいわゆる便乗補欠選挙の要件を規定し、同条第三項但書において、本件

のような町議会議員の便乗補欠選挙については、町選挙管理委員会が便乗される他

の選挙(本件においては町長選挙)の告示の日前一〇日以内に町議会議長から議員

の欠員通知を受けたときはこの限りでないと規定している。

原告は先ず公職選挙法第一一三条第三項但書中の「選挙の期日の告示前一〇日以

内」とは、選挙の期日の告示の日を第一日として逆算し、一〇日目に当る日以内と

解すべきであるとして、牛津町選挙管理委員会の執行した本件補欠選挙は選挙の規

定に違反していないと主張する。

しかし右の「選挙の期日の告示前一〇日以内」とは、選挙の期日の告示の日の前日

を第一日として逆算し、一〇日目に当たる日以内をいうと解すべきである。けだ

し、このように解釈するのが、告示の口前一〇日以内と特に“前”という文言を使

つた用語法にも叶い、かつ特段の明文の規定のない限り、公法の期間計算にも妥当

すると解すべき民法の期間計算方法にも合致するからである。

尤も、証人C、同Dの各証言によると、選挙の期日の告示は慣行として当日の午前

零時に行われていることが認められるところ、民法第一四〇条がその但書におい

て、其期間が午前零時より始まるときは、初日を算入する計算方法をとつているの

で、選挙期日の告示の日当日を初日として算入すべきである旨の異論も予想され

る。

しかし公職選挙法第一一三条第三項但書中の「選挙の日の告示前一〇日以内」とい

うのは、期間計算の起算点が午前零時より始まるものであるとは規定文言から到底

考えられず、また「一〇日以内」とは、いわゆる便乗補欠選挙を実施するための市

町村選挙管理委員会の準備期間を指すものと解するので選挙の告示の日は一〇日の

日の期間計算の初日に算入すべきでないと解する。

そうすると、牛津町議会議長より昭和四七年九月二一日になされた議員欠員の通知

は、便乗される牛津町長選挙の告示の日である同年一〇月一日を基準として、前記

方法で計算すれば、「選挙の期日の告示の目前一〇日以内」になされた場合に当た

るものといわねばならない。

三 次に原告は、欠員通知が一〇日以内になされた場合でも、便乗補欠選挙を執行

するか否かは、当該選挙管理委員会が選挙執行に支障がないか否かなど諸般の事情

を考慮して決定しうるもので、公職選挙法第一一三条第三項但書が「この限りでは

ない」と規定するのはその趣旨を示すものであるという。

しかし、公職選挙法は、選挙が公明且つ適正に執行されることを確保し、もつて民

主政治の健全な発達を期することを目的とするものであるから、同法規の選挙の管

理執行に関する規定の解釈に当つては、選挙の執行が公明で且つ適正であることを

疑わしめる結果を招来するような解釈は妥当しないのであつて、形式的画一的な解

釈によつて、法規の執行をなすことこそ同法の公明且つ適正な選挙を実現する所以

であると解される。従つて、前記但書の「この限りではない」という規定の仕方も

当該選挙管理委員会が、但書所定の日以後に(市町村議会議員の場合は、選挙期日

の告示の日前一〇日以内)議員の欠員通知を受けた場合は、最早や、便乗補欠選挙

は執行し得ないことを明記した趣旨と解すべきである。

かりに、原告主張のように、当該選挙執行機関が同条項但書の場合に、便乗補欠選

挙を執行すると否との裁量権を有すると解すれば、選挙執行機関ごとに取扱を異に

し選挙執行に不統一と混乱を招くことになりかねないばかりか、選挙執行機関に政

治的考慮を許す余地を与え、政治的諸勢力によつて執行機関が圧力を加えられる虞

を生じ、ひいては選挙の執行につき住民から疑惑の目でみられる結果を招来し、公

明且つ適正な選挙の執行を意図する公職選挙法の理念にもとるものといわねばなら

ない。

そうすると、本件補欠選挙は、本来、町長選挙に便乗して町議会議員の補欠選挙を

執行してはならないのに、牛津町選挙管理委員会が公職選挙法第一一三条第三項但

書の規定に違反して執行した選挙であり、選挙の無効を規定した同法第二〇五条第

一項にいうところの「選挙の規定に違反することがあるとき」に該当するものとい

うべきである。

四 原告はまた、牛津町議会議員に欠員の生じることは昭和四七年九月一八日にお

いて既に確定的であり、牛津町選挙管理委員会も、このことを欠員通知を受ける以

前に知つていたのだから、実質的にみれば、議員の欠員通知は「選挙の期日の告示

の目前一〇日以内」には該当しない場合であるという。

しかしながら、欠員通知の有無は当該市町村議会議長からの所定の欠員通知のなさ

れた日をもつて画一的に決すべきことは同条項但書の規定から自から明らかである

から、選挙管理委員会が欠員通知を受ける以前に欠員の生じることを知つていたか

否か詮索する要をみない。原告の右主張は失当である。

五 更に原告は、本件補欠選挙が同法第二〇五条第一項にいう「選挙の規定に違反

することがあるとき」に該当するとしても、原告は対立候補者がなく、無投票当選

した場合であつて「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」ではないから、本件

補欠選挙を無効と裁決し又は判決することはできない旨主張する。

けれども、公職選挙法第一一三条第三項のいわゆる便乗補欠選挙は、議員定数に欠

員があることをその実質的前提要件とし、同項但書所定の欠員通知を受けたことを

その手続的前提要件とし、右前提要件のいずれを欠いた場合でも便乗補欠選挙は執

行すべからざるものといわねばならず、実質的前提要件が具備してないのに補欠選

挙を行なつて無投票当選者を生じた場合も、手続的前提要件が具備していないのに

便乗補欠選挙を行ない無投票当選者を生じた場合も、等しく、同法第二〇五条第一

項にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」に該当することは勿論、元来か

ゝる選挙執行の重大なる前提要件を欠いた選挙は、選挙の結果に異動を及ぼす虞、

いいかえれば、候補者の当落について現実に生じたところと異なつた結果を生じた

であろうとの可能性があると否とを要せず、現に法規上執行すべからざる選挙執行

の結果、無用の当選人を生じている点において、直ちに選挙の結果に異動を生じた

ものとして無効たるを免れぬものと解するのが相当である。

そうだとすると、原告が本件補欠選挙における無投票当選者であるとしても、その

便乗補欠選挙そのものが、選挙執行の前提要件を欠いたもので、直ちに選挙の結果

に異動を生じている場合であるから、右選挙は無効たるを免れないといわねばなら

ない。

六 よつて、被告が、訴外Aの審査の申立に基づいて牛津町選挙管理委員会がなし

た同訴外人の異議申出を棄却する決定を取り消したうえ、本件補欠選挙を無効と裁

決したのは正当であり、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟

費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 原田一隆 塩田駿一 松島茂敏)

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